成年後見
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や障害などが原因で、契約や相続の内容について判断ができない人(=本人)のために、本人の代わりに判断する人(=成年後見人)を選ぶ制度です。
成年後見人は、本人が不利益を被らないように様々な判断をし、本人の財産を管理します。つまり、本人が持っている銀行口座の通帳はすべて成年後見人が預かり、そこから日常生活に必要な支払いをしていきます。また、成年後見人が不正を働かないよう、あらゆる収入や出費について裁判所もチェックをします。
一見、本人の財産をしっかりと守るために有効な制度に見えますが、利用するときには事前に知っておくべき大変なこともあります。このページでは実務の視点から、これらのことについて詳しくお伝えします。
成年後見制度は何が大変なのか
成年後見制度の大変なところは3つあります。
1つ目は、成年後見人に誰がなるのかは自分たちでは決められないということです。
成年後見人選ぶ手続きをする際、誰かが立候補することはできます。しかし最終的に誰が成年後見人になるのかは、裁判所が決めます。本人が持っている財産の種類や金額を考え、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人になることもあります。
専門家が成年後見人に選ばれた場合、銀行口座の通帳もすべて預けることになるため、洋服を本人のお金で買いたいときやお孫さんに入学祝いを渡したいときなど、その専門家にお願いをして許可をもらうこととなります。また、成年後見人は年に1回、本人の財産から報酬をもらうことができます。専門家が選ばれた場合は、年に1回本人の口座からお金を支払うことになります。
2つ目は、成年後見人は本人の財産に関して、あらゆる収入や出費を裁判所へ報告する必要があることです。年に1回、成年後見人は裁判所へ収支の報告をする義務があります。いわば「毎月の家計簿」を裁判所に提出することと同じです。家を売ったなどの大きなお金の移動だけではなく、ジュースを買った・シャンプーを買ったなど日常に関する出費などもその金額を報告する必要があります。
3つ目は、成年後見人は本人が亡くなるまでずっと財産の管理をしなければならないということです。どうしても成年後見人を続けられない理由などがあるときは裁判所に許可をもらってやめることができますが、よほどの理由がない限りは亡くなるまで続ける必要があります。
大変なのになぜ成年後見制度を使うのか。必ず使わなければいけないときはいつなのか。
ここまでの話を読んだ人の中には「そんなに大変なのになぜこの制度を使うのだろうか」と疑問を抱いた人もいると思います。認知症になる前から銀行口座の管理を信頼のおける人に預け、その人に管理してもらえばいいのではないか…と。
その考えはおおむね正しいです。しかし、絶対に成年後見制度を使わないといけないときがあります。それは、家などの大きな財産を売るときや遺産の分割をするときです。つまり、施設に入るお金を工面するために、認知症の人が今まで住んでいた家を売りたいときや、認知症の人が相続人となったときなどです。
売買契約を結んだり、遺産分割協議書に捺印をしたりなど、重要な判断に関しては絶対に本人が判断しなければなりません。そのような時、いくら信頼がおける人とは言え本人の代わりにはなれません。事前に準備をしていなかった場合、これらのことを行うために成年後見制度を使うこととなります。成年後見人は本人の「代わり」になる人なのでこういった判断をすることができるのです。
そうならないために事前にどんな準備ができるのか
ここまで、成年後見制度の大変さをお伝えしてきました。では、これらの大変さを経験しないためにどのような準備をしておけばよいのでしょうか。
大きく3つほど考えることができます。
1つ目が、事前に贈与などで財産の名義を信頼できる人に変えることです。名義を移すことによって、売買などの契約はその人自身ができるようになります。
2つ目が、任意後見契約を結ぶことです。遺産分割協議書の捺印など、名義の変更などで対策できない手続きの場合は任意後見契約を結ぶことも有効です。「もしも自分が認知症になった場合はこの人に代わりに判断を任せます」といった内容の契約を事前に公証役場で作成することでいざというときに役に立ちます。
3つ目が、家族信託の制度を利用することです。家族信託は認知症対策としてとても有効です。柔軟に財産の管理方法などを決定できるため、あらかじめ様々なことを想定した対策をすることができます。亡くなった後のことについても決められるため、遺言では叶えられないようなことも家族信託では実現することができます。